セキュリティコンサルタントの備忘録

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ドイツのキャッシュレス決済事情

概要

先日、ドイツへ約5日間の旅行をしてきた。回った都市はフランクフルト、ハイデルベルク、ケルンだ。日本で生活しているときもそうだが、仕事柄、決済手段(特にクレジットカード決済)はついつい気にしてしまう。今回の旅行で、ドイツの決済事情について垣間見た気がするので、それらについて紹介したい。

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ドイツはキャッシュレス化に慎重?

まず、データから見てみる。Forex Bonusesが2017年に実施した調査によると、ドイツは世界第8位のキャッシュレス国らしい*1(第1位はカナダで、日本は第9位。残りは脚注を要参照)。なお、この調査ではクレジットカード、デビットカードスマホ決済などをキャッシュレス決済と扱っている。また、JCA(日本クレジット協会)の資料によると、ドイツの2015年度民間最終消費支出に占めるクレジットカード、デビットカードの使用割合は、クレジットカード:0.4%、デビットカード:14.5%と極端に低い*2(日本はクレジットカード:16.6%、デビットカード:0.1%)。2年前に採られたデータであることを差し引いても、少ない数字だと言える。

このように、数字を見るとドイツはキャッシュレス先進国とは言い難い。むしろ、先進国と呼ばれる国々の中ではキャッシュレス化が遅れていると言われてもおかしくない。さらに、ドイツ国民は現金以外の支払い方法について懐疑的であるとする指摘もある*3。それでは、そのようなドイツで実際に見た決済事情はどうだったのか?

 

ドイツで見た決済事情

まず結論から言えば、約5日間ドイツに滞在して、カード決済が出来ない場面はほとんどなかった。ハイデルベルクで入った小さなカフェとザクセンハウゼンの飲み屋は現金のみ利用可だったが、訪れたスーパー、飲食店、観光施設などではまず間違いなくカード決済に対応していた。その上で、日本でのカード決済との差異は以下のような点だった。

 

コンタクトレス決済の普及

ここでのコンタクトレス決済とは、FeliCaのような電子マネー決済ではなく、Visa payWaveやMastercardコンタクトレスのようなNFCによる決済を指す。

日本ではVisa payWave対応カード(デビットカード含む)をSMBC北國銀行、りそな、SBIなどが、Mastercardコンタクトレス対応カードをdカード、オリコ、ジャックスが発行しているが、NFC決済が可能な加盟店はまだまだ少なく、なかなかお目にかかることはない。

しかし、ドイツでは至るところでNFC決済に対応した加盟店を見かけた。

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フランクフルト空港のバゲージクレームで見つけた、空港用カート貸出機。クレジットカードを挿入して決済することも可能だが、"pay contactless!"の文字やコンタクトレスを示すマークからもわかるように、NFC決済が可能となっている。

 

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フランクフルト中心部のデパート地下にあるサンドイッチ店。ここにもコンタクトレスマークがある。写真にロゴがあるconcardis(コンカルディス)は欧州の大手PSPで、ドイツにおけるAlipayのパートナーだ*4

 

デビットカードの表示

先程の写真にも載っているが、「vpay」「maestro」「girocard」など日本では見ることが出来ないデビットカードの表示がある。

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ハイデルベルク中央駅前にある観光案内センター。「girocard」が使用可能である旨の表示がある。余談だが、ハイデルベルクを訪れたのは日曜日であったため、観光案内所は閉まっていた。ここに限らず、ドイツでは日曜日になると大型ショッピングモールから小さな商店までほぼ全ての商業施設が閉まる。素晴らしい労働観念だ。

 

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ハイデルベルク城に行くためのケーブルカー乗り場にあるチケット販売機。「vpay」「maestro」に対応している旨の表示がある。

 

vpay:Visaブランドのデビットカード。日本でSMBCなどが発行しているVisaデビットカードなどと同じ仕様と思われる。

maestro:上記のvpayのマスターカード版。

girocard:ドイツの銀行で普通口座を開設すると(無料で?)発行されるデビットカード。従来はECカードと呼ばれていたが、ECカードの新規発行は停止されたため、girocard(ジロカードと読むらしい)のみの発行。キャッシュカードと一体化になっており、vpayやmaestroなど国際ブランドのデビット機能が付加されることもある模様*5

 

上記のうちvpay、maestroなどはそれぞれVISA、Mastercardなどのクレジットカードが利用可能であれば当然利用可能であることが想定される。したがって、わざわざロゴをプリントしておく必要はない。しかし、それだけ利用者が多く(実際上の統計でも14.5%の利用がある)、書かないことの機会損失を加味して表示しているのだろうと察する。

 

その他

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これは結構驚いたが、マクドナルドの注文機械。タッチパネルで商品を選択して、最後にカードで決済する。これに至っては、現金の利用が出来ない。ちなみに、筆者もこれを使って注文しようとしたが、決済機がうまく反応しなかったため諦めてフツーにレジで注文した。隣の人はちゃんと決済していたので、故障かな。。。

 

あくまでドイツの「中心都市」でのお話

このように、筆者がドイツで5日間観光した限りでは、ほぼすべての場所でカード決済が可能だった。ただし、筆者はあくまでフランクフルト周辺を観光しただけで、それ以外の決済事情については見ることが出来ていない。日本でも、東京の中心部だけを見るのと、地方の田舎を見るのとでは、決済事情もかなり違うだろう。したがって、今回見てきたものをもって、ドイツのキャッシュレス事情が日本と比べて進んでいる/遅れていると断定することはできない。

しかし、日本ではなかなか見られない決済機器やデビットカードの普及などが垣間見れて有意義だった。

 

インバウンドに視野を絞るなら、観光客視点での利便性は重要

「中心都市」を見るだけではその国全体の決済事情は語れないと書いたばかりだが、インバウンド需要に焦点をあてて議論をするのであれば、中心都市における利便性を考えることに一定の意義はあるだろう。

たとえば、美術館や博物館、その他観光施設(今回であればハイデルベルク城など)などは多くの観光客が訪れるため、インバウンド需要に伴うキャッシュレス環境の充実を考える上では優先的にキャッシュレスを進めていく必要があるだろう。一方、街の小さい商店など、地元の方がメインの顧客となっている場所では、それほどキャッシュレス化に注力する必要はないように感じる。

日本では2020年のオリンピック/パラリンピックに向けてキャッシュレス環境を整えようという動きがあるが、このようなインバウンド需要に対応するためのキャッシュレス環境の充実を考える上では、観光客が感じる利便性(そしてもちろん安全性や安心感)を考慮したキャッシュレス化を進めていく必要があると思われる。*6

 

おわりに

今回は、観光客視点でキャッシュレス事情を眺めたが、真にその国のキャッシュレス事情を考えるならば、やはり日常的にそこで生活を営む人々の利便性や生活意識を考える必要があるように感じる。特に筆者はこの「生活意識」というものが重要な要素だと考えていて、これは安全/安心に関する人々の考え方や、法律や諸制度などの影響が入り混じって構成されるものだと想像している。今回訪れたドイツを含む欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)の施行が近づいており、人々の意識とこれらの法制度との関係を考えることはますます重要になっていると思われる。短い旅行でそこまで思索を巡らせることはできないが、そのような複雑な議論も必要であることに注意していきたい。

 

*1:http://www.forexbonuses.org/cashless-countries/

*2:https://www.j-credit.or.jp/information/statistics/download/toukei_03_h_170630.pdf

*3:https://www.nna.jp/news/show/1611114

*4:http://www.afpbb.com/articles/-/3131506 

*5:http://euro-japan.net/index.php?option=com_content&view=article&id=920&Itemid=503&lang=jp

*6:裏を返せば、インバウンド需要に向けたキャッシュレス化の促進と、日本に居住する人々の日常におけるキャッシュレス化の促進とを同じ土俵で論じるのは少々大雑把すぎるように感じる。

「サイバーハロウィンキャリアトーク」に行ってきた。

10月31日といえばハロウィン。地獄絵図になっている渋谷を避けて、秋葉原でひっそりと(?)催された「サイバーハロウィンキャリアトーク」なるものに参加してきた。

来年4月から情報セキュリティを扱う企業で働く予定だから、まあ多少はね。

 

「サイバーハロウィンキャリアトーク」とは*1

 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)と在日米国商工会議所(ACCJ)が毎年開催している、サイバーセキュリティのキャリアに関するイベント。サイバーセキュリティ分野の動向・キャリアの紹介に関する講演や、参加者によるプレゼン(ライトニングトークコンテスト)などがある。無料。

 

情報セキュリティ関連の偉い人たちによる講演

米国大使館一等書記官とか内閣官房サイバーセキュリティセンター副室長とか日本マイクロソフトのチーフセキュリティアドバイザーとか(以下略。席数にも余裕があり、後方は人でびっしりなのに前方がわりとスカスカというジャパニーズ・スタイル()だったので、前方でゆったり講演を聴くことができた。蔵本 雄一(筑波大学非常勤講師)さんが話されていた、「無菌室」(脅威が全くない状態)を目指すのではなく「免疫力」(脅威に対抗する・ハッカーの費用対効果を下げる力)を付けようという主張がなかなか面白いなと感じた。

 

情報セキュリティの現場の人たちによる講演

偉い人たちだけではなく、実際に企業や行政で「情報セキュリティ人材」として業務をこなしている方々によるプレゼンもあった。このプレゼン、出場者にはACCJ加盟企業(FacebookとかGoogleとか)から賞品がもらえるのだが、出場者が少なかった(5人)ため、いくつも賞品をもらってるプレゼンターがいた。皆さん第一線で活躍していらっしゃる方々なのに、とても「ゆるくて」楽しいプレゼンだった。

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分科会での議論

講演が一通り終わると、ピザやサンドイッチなどの軽食が振る舞われた。その後は3つのブースに分かれて分科会。「サイバーセキュリティのキャリアパス」 「実は狭くない!サイバーセキュリティ人材の活躍できるフィールド」「世界を駆けるサイバーセキュリティのキャリア」などのテーマでそれぞれパネラー発表や会場からの質疑をもとに議論が行われた。筆者は「サイバーセキュリティのキャリアパス」に行った。給与や出世の話などかなりのぶっちゃけトークが聴けて面白かったが、出来れば他の分科会を見て回る時間も用意されているといいなぁと思った。*2

 

ノベルティグッズ

分科会が終わると閉会。帰り支度を始めるが、忘れずにノベルティグッズを貰いに行きく。だが、なんか異様に多い。

・オリジナルタンブラー(Surface上で自分で描いた絵を印刷)

・NISCオリジナルマグ

・NISC缶バッジ

IBMノート

Google缶バッジ×2

Facebookノート

Facebook「いいね」付箋

マカフィーのペン

マカフィー「リブセーフ」(希望小売価格7600円)

他にもFacebookのペンとか置いてあったが、何か悪い気がしてこれだけに留めた。

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結論

色んな人の講演を聴いて、軽食食べながら来場者とお話して、現場の方々の議論に参加する。そしてノベルティグッズをかっさらう。初めて行ったが、来年も是非行ってみたいと思うイベントだった。NISCはポケモンGO配信前のあの注意書きといい、このイベントといい、かなり人々に寄り添った広報活動をしていると感じた。

ハロウィン感がどこにあったのかは甚だ疑問*3が、とっても楽しくてお勉強になるイベントだった。

 

 

*1:詳細は

http://www.nisc.go.jp/security-site/campaign/cyberhalloween.html

*2:あと、PAさん頑張ってましたが、もうちょっとパーティションで区切るなどすると、音量がちょうどよくなるかなぁと。

*3:米国大使館一等書記官が"Happy Haloween!"と第一声で言って会場が異様な空気に包まれたとき、「日本」を感じた。